sksmchan’s blog

さかさまちゃんです 出来るだけ飽きないようにすることと一貫した内容を心掛けたいと思ってる

僕の生まれた街

無機質な街に生まれた。

残酷なもので、生き物は生まれる環境を選べない。僕の生まれた街は、ただ無心で歩く機械のような人ばかりの所だった。

 


体温に恵まれずに育った。ひたすら藻掻いて生きていた。

 


僕が初めて他人に話しかけられたのは、通りすがりの物腰優しいおばさんだった。

こんな僕にも興味を示してくれるのか、と思った。

その人の信じる神とやらを僕も信じることで幸せになれると説かれた。

今まで何も信じて来なかった僕にとって、とても新鮮な誘いだった。

 


僕は、幸せになりたかった。

 


しかし彼女は、僕に興味を持ったわけではなかった。ただのカモだったのだ。

ただの人集めのために寄ってきただけだった。

 


僕は初めて信じた人に裏切られる悲しみを知った。

人が僕という存在を認識してくれたことが嬉しくて、この人なら、とつい心を許してしまった。

 


僕は許せない、と思った。僕はそのように下に見られる生き物では無い。

 


脅しと恐怖と理想論によって支配されているあの場所から、僕は大声で「神などいない!」と叫び、逃げ出した。

 


逃げる途中、おばさんがいた。

少し驚いた顔をしていたが、すぐに鬼の形相になった。

 


僕は、昔おばさんに貰った物と同じチラシを丸めて思い切り投げつけた。

後ろからずっと、甲高い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


僕は二度と誰も信じないと決めた。

人は誰とも手を取り合えないと深く理解した。

 


手を繋いで歩く男女はいつかきっと背を向けるだろう。

子を抱く母親はいつかきっと手を上げるだろう。

 


僕は僕の宗教を作った。

平仮名や漢字は書けないので、僕の作った日本語をアスファルトに描いた。

次の日、人々の足跡で消えていた。

 


僕は突然、生きる意味を考えた。

僕の考える幸せとは何だったのだろうか。

 


お金がある事だろうか。

美味しいものを食べられる環境だろうか。

好きなことを永遠にしていられる時間だろうか。

 


僕は分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、とある民家の前を通った。

たまたま、家の中の風景を見てしまった。

 


皆で唐揚げを囲んでいた。

 


僕には家族がいなかった。

 

 

 

僕は、僕の得たいものを知ってしまった。

けれど、手に入れる術は無いと同時に悟った。

 

 

 

 


僕は生きている意味が無いことに気づいた。

僕の幸せはもう手に入らない。幸せにはなれない。

 


僕は屍となった先の世界を夢見た。

そこであればきっと、僕の桃源郷が広がっているだろうと思い込んだ。

 


僕は何処からか飛んできた紙の裏に、僕の日本語で、僕の筆で宗教を広げた。

 


それを飛行機にして飛ばした。

 


僕は、僕の信じるものの証を刻んだ。

 

 

 

そうしてそのまま、線路に飛び込み、車内の社会人に舌打ちされたのだった。

逃避

 

今日旅をすることに決めた。
溶けるような日差しの中、鮮やかな景色で。
少年は『独り』ではなく『一人』を探す為、世界を飛び出した。
色素の多い風、赤黒いアスファルト
全てが非常に鬱陶しく、すり抜けるように歩いた。


新しい世界では今までのような価値観、常識、概念、言葉などはもう必要ない。
いつか夢に見た事も全て叶う場所。
他者を酷く嫌う必要のない所、甘いジュースの出る蛇口、首を吊った人々。
少年は穏やかな刑務所の様な世界を望んだ。


軋むブランコに立つ。壊すように揺らした。
幼い子に人差し指を向けられたので、笑顔で舌を出した。


自転車に轢かれた。痛覚はまだ生きていた。
頭を下げる人の横を素通りした。


世の枠に嵌らずに歩くことがこんなにも素晴らしいとは。少年のみが支配しているとすれば、あまりにも他者に優しくない。皆もこちらへ来れば良いのに。


果てに辿り着くのは海である。少年はその奥底に楽園があると信じた。
脚の生えたシーラカンスを見たい。


ここまでの旅路、様々な人に指をさされた。しかし少年は目線すら返さなかった。見なかったのか、見えなかったのか。
ただ逃げるように、何かを求めるように歩みを続けた。


『ママ、見つけたよ』


水面に鍵をかけて、少年は四肢を棄てた。
光の差すことの無い場所で。


少年は望んだ世界を得られただろうか。
 

不眠

どうにも寝られないらしい。よく分かりもしない波に左右されるなんて、こんなに弱かったとは。自分にとって、眠りにつくことよりも考えることの方がよっぽど大事だったのかもしれない。
ここで遠くへ行くにはこれしかないというのに身体と頭は別の方向へ先走る。誰か繋げてくれ。いいよ。いいよ。やっぱりいいよ。そんなことを頼むほど私は愚かじゃない。
起き上がるのに誰かの手はいらない。自ら城壁を作って、立ちやすいように段差を用意するので何も問題ない。階段のような壁で生きると決めた。邪魔ならば壊すまで。或いは潜ろうか。その土地に根をはって埋まるのもいいかもしれない。
そうしたら空を飛ぼうよ。何だってできるよ。溶けて排水溝に入ることもきっと容易いよ。屋根を作るのも一瞬だよ。
そんな夢を一緒に見ようか。一緒?この空間には入れないよ。侵入なんかさせない。一人でインド洋に沈みなよ。私は太平洋を歩く。
もしも本当に一緒に来るのなら、私も覚悟を決めないといけない。そんな素敵なところにいく勇気はないからね。君もそうだろう。
σによる創造、操作するのは自分だ。手をかけてしまえ。二度と瞼を開けないよう、許すことのないように。
ならどこに行きたい、何をしたい?暖炉に飛び込むのもいい。指を切って飾るのか。選択肢はそちらだ。そんな生温い事を考えていた訳では無いだろう。早く答えなよ。
下弦の月、北緯38°、丑の刻に。
あぁ愉快。愉快。
氷につけて流そうという。綺麗な箱庭になる、と。私は遠くへ行きたいのだ。君が縄を括るにはとても無理である。それなら河へ向かおう。いつか海に渡れるのだ、こんな素晴らしいことは無い。私は歩くよ。北斗七星に向かって。足場にでもなってくれ。
そうか。であれば君は目を覚ますといい。
ここはもう既に遠い。時は短いけれど、良い旅になれたのならいいね。