逃避
今日旅をすることに決めた。
溶けるような日差しの中、鮮やかな景色で。
少年は『独り』ではなく『一人』を探す為、世界を飛び出した。
色素の多い風、赤黒いアスファルト。
全てが非常に鬱陶しく、すり抜けるように歩いた。
新しい世界では今までのような価値観、常識、概念、言葉などはもう必要ない。
いつか夢に見た事も全て叶う場所。
他者を酷く嫌う必要のない所、甘いジュースの出る蛇口、首を吊った人々。
少年は穏やかな刑務所の様な世界を望んだ。
軋むブランコに立つ。壊すように揺らした。
幼い子に人差し指を向けられたので、笑顔で舌を出した。
自転車に轢かれた。痛覚はまだ生きていた。
頭を下げる人の横を素通りした。
世の枠に嵌らずに歩くことがこんなにも素晴らしいとは。少年のみが支配しているとすれば、あまりにも他者に優しくない。皆もこちらへ来れば良いのに。
果てに辿り着くのは海である。少年はその奥底に楽園があると信じた。
脚の生えたシーラカンスを見たい。
ここまでの旅路、様々な人に指をさされた。しかし少年は目線すら返さなかった。見なかったのか、見えなかったのか。
ただ逃げるように、何かを求めるように歩みを続けた。
『ママ、見つけたよ』
水面に鍵をかけて、少年は四肢を棄てた。
光の差すことの無い場所で。
少年は望んだ世界を得られただろうか。